グレンスフォシュ・ブルークスの斧
日本各地の都市で土着的に鍛造されている、直線的な柄にすげられ刃の縁に三本のスジを入れられた「和斧」。
一方、欧米から輸入されて、ホームセンターの壁に飾られ、昨今ではネット通販でも大いに宣伝されている、筋のない刃に曲線的な柄を有した「洋斧」。
この洋斧の流行には、多少の波が存在した。
平成の初めころまではドイツのメーカー、スチール。そしてスゥエーデンのメーカー、アクドールが首都圏で販売される輸入洋斧の大半を占め、そこにアメリカのメーカー、スタンレーが多少参入していた。自身が初めて買った斧はアクドール、ついでスチール、さらにスタンレーの順序だったように記憶している。
しかしここ5年ほどの間に西洋斧の世界は、卓越した1メーカーの製品に収斂してしまった感がある。そのメーカーこそ、スゥエーデンが誇るメーカー「グレンスフォシュ・ブルークス」。
森の国、スゥエーデン。その豊かな森林資源と大地にはぐくまれた清らかな水、そして大地が有する鉄鋼資源を活用し、ヴァイキングの昔から鉄の精錬が盛んだった土地柄だ。川沿いの鍛冶小屋で職人は斧はじめ様々な刃物を鍛え、村人は農具や刃物を手に日夜いそしむ。
グレンスフォシュ社は、1902年から斧を生産している。斧が工場で大量生産できる時代であり、伐採はチェンソーの独壇場となった現在でも職人がひとつひとつ、斧を打ち鍛えている。
職人は仕事に責任と誇りを持ち、自ら手がけた斧には、刃の側面に刻印を入れる。
グレンスフォシュ社の製品が全世界に広まったのは、この精魂込めた製作姿勢はもとよりその使い勝手のよさにある。
斧の使い道といえば、まず薪割り。スジの捻くれた節だらけの木でも、スッパリと割ってしまえる斧を求めるのは薪を使う家庭の等しい望みだ。
グレンスのラージ薪割り(上の図の7)と、薪割り鎚(同8)は、まさにその望みに合致した斧だったのだ。
鋭く、かつ厚い刃。薪の木口にサクリと食い入り、重みと厚みでバサリと割り裂く。さらに薪割り鎚は、刃の反対側をハンマーとして、割れない木に楔を打ち込んで割り裂く。威力は絶大で、多数の薪ストーブユーザーの話題をさらった。そして意外な工夫が、「柄のガード」だ。薪に斧を打ち込む際、柄の部分を薪に打ち当ててしまう失敗は、誰もがするところ。これを繰り返せば刃の付け根部分の柄がどんどん磨り減り、しまいにはポッキリ・・・。という失敗にもなりかねない。折れて飛んだ刃の先に人がいたならば、ホラー映画よりも恐ろしい。
グレンスフォシュはここにも着目して、図にもあるように、柄の付け根に鉄板のガードをつけた。今までここに着目する鍛冶屋やメーカーがなかったのが不思議なくらい、簡単でかつ重要なアレンジ。
かくてグレンスの斧は輸入斧市場を席巻した。
さて、私もグレンスフォシュの斧をひとつ所持している。上の図には無いが、ネットにて購入した「両刃投げ斧」
柄の長さは90cmほど。戦斧を思わせるそれぞれの刃の刃渡りは15cmほど。多少太めの柄を握れば驚くほど馴染みがよく、軍手の用意を考えなくとも良いほどである。
買ったばかりの新品の刃ですねを撫でれば、スネ毛がサクサクと面白いように剃り落とされた。後日、庭仕事の際その斧を携え、庭の隅の木に振り下ろせば滑らかな切断面を見せ付けながら幹に食い入り、腕に疲れを残さないまま木は倒れた。
幹の切断に移っても、切れ味のよさは変わらない。鉋をかけたような木目の痕を残し、幹は切断された。
当時で2万五千円だった、グレンスフォシュの大型投げ斧。今は2万9千円くらいに値上がりしているようだ。まぁ、安い時分に買っておいてよかったことだ。
それでも、四千円値上がりするだけの価値は充分にあると思って良いだろう。枝打ちに伐採専門として、非常に有能な斧だ。
グレンスフォシュの斧は、職人がひとつひとつ手作りしている。職人は製品に責任を持ち、手がけた製品にイニシャルを入れる。
レナート・ペーターソン氏は LP
ケル・アーエイ・ショーランド氏は KS
ユーリク・ニルソン氏は UN
ルーン・アンダーソン氏は RA
ミカエル・サンドバーグ氏は MS
マティアス・マットソン氏は MM
ラース・エイナンダー氏は LE
ダニエル・グランツ氏は DG
私の斧は、ユーリク・ニルソン氏の手による製品のようだ。
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