フォト

おすすめ

  • Google

最近のトラックバック

無料ブログはココログ

« スチール社のチェンソー用斧 | トップページ | 木こりの伐採技術とスポーツ »

2009年3月 9日 (月)

ダリウス・キンゼイ写真集『森へ』

かつては文字通り千古斧を知らぬ大密林が繁茂していた北米大陸。ニレやナラ、モミや米松は芽生えるや獣の爪とたまの暴風、山火事以外に敵を知らず、豊富な陽光を享受して天を目指した。

木は芽生えればほぼ間違いなく巨木へと成長する。特に雨に恵まれた太平洋岸の北部では、木々は想像を絶する大きさに成長する。高さ100メートル以上にまで育ったセコイアは有名だが、ダグラスファー、米松、米杉、米栂の「北米材」と呼ばれる樹木も大きさでは引けをとらない。高さは80メートル、直径は4メートル。

先住民の石斧では到底手に余る森の王者。手をつけられることもなく、順調に雨を受け風にさらされ陽光を浴び、雪を纏って年輪を重ねてゆくはずであった。

しかし時代は流れ、東海岸から大平原地帯を席捲した白色人種。手足が長く筋肉が発達した大男たちが「モクザイガイシャ」の僕として、森に侵入し始める。石斧の数倍もの破壊力を持った森の処刑道具、二人挽きの大鋸と両刃の大斧を携えて。

E10015b  千年を生きた木でも、身を守る術を持たない。逃げる脚を持たない。

経験豊かな木こりは大木の枝振りと四方の地形を判断するや、深々と斧を打ち込み、傷口に長大な板を差し込む。

差し込まれた板は「足場」だ。身軽に飛び乗り、長大な鋸で一気に幹の半分ほどを伐りこむ。

切り終えたならば、切り口の上部を斧でそぎ落とす。リズミカルなこだまとともに木の命が、むなしい木っ端屑と化して飛び散っていく。まさにこだまは「木霊」だ。

E10017b 生木が切り裂かれ、緑がむせ返る森の中にヤニの香りが充満する。

木の片側に開いた大きな傷口。これを「受け口」という。この方向に木を倒すべく、経験豊かな木こりは計算するのだ。

確実に木が倒れ、なおかつ倒れた木を「商品」として傷つけない状態の「受け口」が完成したと判断できたならば木の反対側に周り、「追い口」を作る。

受け口の反対側の少し上側から一気に鋸で切り込む。斧は使わない。この反対側に、木は倒れるのだ。

二人がかりで息を合わせて引く鋸がシャリシャリと木に食い込み木の命がおがくずと化して零れ落ちる。

やがて先ほど作った「受け口」の最深部に「追い口」が重なるまで切り進んだあたり。

木がパリパリと小さな軋み声を上げ始める。音は次第にギィィィイィイと大きく響き、木は自重で何とか体勢と保つべく、寿命に執着するがことく呻く。

このままでも、いずれは倒れるだろう。しかし作業の安全と効率を量る木こりは受け口の鋸の刻み目に楔を何本も打ち込む。木の処刑人が下す最期の審判だ。

受け口と追い口の狭間は絶叫を上げて裂け、樹高80mもの巨木は梢を揺らし、何本もの若木を巻き添えにして、自身が最初に芽生えた大地に臥す。

E10004b

木は命を終え、人間達の手で枝を落とされ皮をはがれ、適当な大きさに寸断されてワイヤーで吊られ、馬力や水力で運び出される。

こうして森を出でた大木は、幾千万もの砕片に分断され、それぞれを手にした人間の手で、卒業後の出世街道、転落人生の如くあらゆる用途に用いられる。

金持ちの豪邸として、家具材として招待客の賞賛を浴び、家族に団欒の場をかもし出す。

あるいは屋根のこけら板として霧に朽ち果て、暖炉で灰と化す。

Darius219世紀終わり、アメリカ西部の深い森林地帯に生まれた写真家・ダリウス・キンゼイは妻のタビサとともに、ワシントン州スカギット山系の大森林や、そこで働く木こりをモチーフ5000点にあまる作品を残した。

コンパクトデジカメは夢のまた夢、写真機が肩に担ぎ揚げる大荷物だった時代。フィルムは重くて割れやすいガラス乾板だった時代のことだ。それを人跡未踏の森林地帯まで運び込み、不安定な地面や樹上に運び込んで撮影する。

もとより肉体面では恵まれなかったというダリウス・キンゼイ。森へ機材を運びいれ、荒くれ者の大男に願っていくばくか作業を中断してもらい、ポーズを何分も続けてもらったのちにシャッターを切る。

木こりたちが日常こなす重労働とは雲泥の差。しかし相当なる困難が伴う写真家であったことは想像に難くない。

1940年、日米開戦の前年に不慮の事故でなくなったキンゼイの作品群はそのまま死蔵されるにまかせられたが、1970年に再発見されて1975年、手始めにアメリカにおいて写真集として出版された。

日本版が発行されたのは、1982年。すでに絶版となり、アマゾンでも入手は不可能のようだ。しかし大きな図書館にはたまに収蔵されていることもあり、ハードカバーのA3番で木こりと大木の格闘を堪能できる。

Aboc7「森へ ダリウス・キンゼイ写真集」
 (1984.2.1、株式会社アボック社出版局)\17,000

1

« スチール社のチェンソー用斧 | トップページ | 木こりの伐採技術とスポーツ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/527877/28545597

この記事へのトラックバック一覧です: ダリウス・キンゼイ写真集『森へ』:

« スチール社のチェンソー用斧 | トップページ | 木こりの伐採技術とスポーツ »