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2009年6月

2009年6月 6日 (土)

斬首の斧

若木を一刀両断し、大木に深々と食い込む強靭な刃物、

これを人間に振り下ろしたならばたやすく肉は裂かれ、骨は断ち切られる。この破壊力を人体の損傷に用いようとするのはあまりにも自然な考えだ。ホラー映画を持ち出すまでも無く、斧は石器時代より木を断ち割り、人間をも断ち切った。

今回は処刑道具としての斧を語ろう。

西洋。特にドイツ、イギリス、北欧諸国、ロシアなどの北部ヨーロッパ、古代から中世にかけてはオークや楡、樅の大森林が広がっていた地域では、罪人は大木と同様、斧の一振りであの世に送られた。イタリア、スペイン、フランスなどの南欧諸国が剣による斬首であったのとは好対照だ。森林に生きたゲルマン民族の伝統の血であろうか。

薪割り台のごとき「断頭台」に罪人はうつ伏せに横たえられ、覆面をした首切り役人が大きな斧を振り下ろす。武骨な刃が肉と靭帯、骨を断ち切り、同時に人生をも断ち切られてあの世へと送られる。

丁度したの画のように。

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うら若い美女は死出の旅に白無垢の衣装を選んだ。神父に天国への平安を祈られたのち、首を刎ね飛ばされる。

白無垢は残酷な赤に染め上げられるのだろう。その残酷な美しさをこれから事務的に演出しようとする傍らの首切り役人。斧を操って何百人もの首を刎ねたであろう肉体は鍛え上げられ、イケメンといってもいいくらいに整った静かな顔立ちがこれから起こる惨劇を一層残酷に予感させる。

もしこの首切り役人が見掛け倒しでないプロならば、彼女はこの世の苦痛からはめでたく解放される。しかし日本刀を用いた斬首がよほどの手慣れでは成し得ないのと同じく、斧を用いた斬首でも失敗はよく起こることだった。道具の手入れを怠って。首切り役人の腕の悪さで。

1684年イギリス。謀反の罪で断頭台に送られたモンマス侯爵は首切り役人のジャック・ケッチに6ギニーのチップを手渡した。
手際よくあの世に送ってくれ、という意味である。
しかしこれが逆効果、ジャックは緊張し、最初の一撃は首の肉を多少削ぎ落としただけ。
モンマス侯爵に睨まれて再度斧を振り下ろしたがまた失敗。
さらに二度三度と振り下ろしたが首は落ちない。

血塗れで痙攣を起こすモンマス侯爵。ジャックは斧を諦め、ナイフでようやく首を落とした。
見物人の民衆はあまりの腕の悪さに激怒し、袋叩きにされかねない状況だったという。

2年後、ジャックは首切り役人をクビになった。

あるいはジョジョの奇妙な冒険第一部

メアリースチュアートの首をたやすく落とした首切り役人も、伝説の騎士・タルカスの硬直した首の筋肉に手間取り、何本もの斧を折った。

これら腕の悪い首切り役人による悲劇を無くすため、「改良式斬首装置」であるところの「ギロチン」が開発された。しかしあまりにも有能な道具であったが故に、フランス革命時に無辜の民を数万人も殺してしまった。

方や東洋では。

戦斧が存在しなかった日本国では、やはり斬首の道具として斧の出る出番は無かった。大和時代から剣が、時代が下がれば日本刀が几帳面に罪人の首を落としていった。

一方中国では。

文化の黎明期。紀元前1000年ころ栄えた青銅器時代の古代国家、「」。

青銅を高熱で熔解させ、型に流しこんで器を作る技術が極限にまで発展したこの国家の象徴が、銅で作った巨大な斧の刃「銅鉞」であった。

Abc2007100602 

殷の銅鉞は忌まわしい道具だ。この巨大な刃にかかったのは罪人にあらず、生贄の人間、そして殉死者だった。

古代社会にはよくある話だが、殷では政治は「神のご意志」によって運営されていた。亀の甲羅や牛の肩甲骨を焼き、そのとき出来たひび割れの形で占う。骨を炎に入れれば「ボク!」と音を立てて、「卜」の形をしたひび割れが入る。故に「ボク」と読んで占いを意味する、「」という漢字が作られた。

これで「吉」の結果が出ればそれでよろしい。しかし「凶」の結果が出来ればどうするか。

そのときは生贄を捧げる。北方から抑留され、奴隷とされていた異民族「」を引き出し、銅の鉞で首を刎ねる。青銅器の切れ味、鉞の柄と刃の装着法を考えれば斬首は難しかったであろうが、首が落ちるのは一瞬だっただろう。

何人もの羌族の首を刎ね、再度占う。「吉」が出なかったら?また羌族を引き出し、首を銅鉞で刎ねる。炎に投じられる牛の骨、亀の甲羅に適切なひび割れが入るまで延々と羌族が引き出される。「吉」がでるころには・・・

幾千もの奴隷の首と引き換えに神権政治の長として君臨した殷王朝の王が死ぬ。そこでまた銅鉞の出番だ。地下20メートルの深さにまで掘られた王の陵墓に納められるのは、王の棺に絢爛たる青銅器。そして殉死者としての奴隷。あわれ奴隷達は五体満足な随行は許されず、銅鉞で一人ひとり首を刎ねられてのお供とあいなる。

1976年に発掘された陵墓からは、実に千体以上もの斬首された殉死者が発見されたという。写真の銅鉞は、一体どれだけの血を吸い、骨を断ち切ったというのだろうか。

時代が下っても、斧、鉞は中国史の処刑道具として君臨する。

殷代、漢代。ようやく鉄の刃物が普及し始めた西暦紀元前2百年ころ。中国におけるもっとも残酷な処刑方法は「車裂」である。二本の脚。あるいは手足四本。その先に馬車を繋ぐ。その馬にピシリを鞭を当てたならば。

馬は暴走し、手足は胴から引き裂かれて内臓が飛び出す。

それにならぶ残酷刑は「腰斬」。罪人を台の上にうつ伏せに寝かせ、巨大な斧を振り上げて胴を断ち切る。へその辺りから真っ二つに。首を落とすのとは異なり、即死することは無い。真っ二つの切り口から鮮血があふれ出し、内臓が流れ出す感触を味わいつつ小一時間苦しんで死んでゆく。

斬首以上に重い罪人に適応された腰斬。死へといたる苦痛を連想すれば、容易に理解できようというものだ。

しかし漢の時代ともなれば、斧と台がつながって「押し切り機」となり、その間に罪人を挟んで胴を断ち切るようになった。

さて現在。人道的な理由であるからか、いかなる凶悪な罪人でも弁護人がつく。運悪く処刑されるにしても、絞首か電気椅子、銃殺が用いられる。

しかし現代中国で「売れない漫画家」をやっておれば一生のうちで何度も「腰斬」に処されるだろう。

かの国では「連載打ち切り」を俗に「腰斬」というのだ。

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殷代、銅のマサカリで首を刎ねられる生贄の姿が克明に描かれている。

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無面目・太公望伝  /諸星大二郎/著 [本]

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